皆さんは、認知症の方と直接お話する機会が多いですか?それともあまりないですか?
調剤薬局勤務の場合は、窓口では薬を管理している介護者の方とお話することが多いかもしれませんね。
また、在宅訪問などの場合は独居の患者さんご本人ということもあり得ます。
薬剤師の仕事から離れても、ご自分の身内が認知症、というケースだって、これからどんどん増えてくるでしょう。
一口に認知症、と言っても、問題行動や精神症状の現れ方は様々ですし、患者さんを取り巻く環境、接する人の立場によっても、対応の方法は変わってくるでしょう。
今回は認知症の患者さんについて書いてみたいと思います。
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認知症は、進行具合が軽度から中等度に移行する時期に、妄想(物盗られ妄想、被害妄想)、興奮、攻撃的言動や徘徊などの困った事態を引き起こすとされています。
私の知人の話ですが、85歳のお母様(仮にA子さん)が腰椎圧迫骨折で1ケ月入院した後のことです。
ちなみに入院前までは独居でほぼ自立、薬もご自分でPTP管理されてました。退院後、共働きの知人夫妻宅に同居し、週3~4回ペースでデイサービスを利用するようになりました。
実は入院中から異変は生じていたのです。自宅に帰り、一包化した薬を見て「自分の薬と違う‼︎」「血圧の薬がない‼︎」と騒ぎ出したのです。もともと飲んでいた血圧の薬が1日1回だったところ、整形の処方が増えて1日3回になったのも混乱の原因でした。
そこで、古くからの内科かかりつけ医の薬はそのまま、整形の痛み止めは屯用、骨粗鬆症治療薬(SERM)内服薬から半年持続型の注射製剤(抗RANKLモノクローナル抗体)に変更し、なるべく入院前の服用回数に合わせるようにしました。さらに、自己管理も難しそうだと判断し、家族が食事と一緒にお盆に乗せて出すようにしました。
・・・そうです。数日後、「(嫁)子さん、私の薬がなくなっちゃったのよ!」が始まります・・・。
A子さんの物盗られ妄想は日に日に酷くなっていきます。
たびたび最近の記憶と過去のそれとを混同してしまうようです。
「孫が私のラジオを持ってっちゃった」
「デイサービスでお風呂に入ったらカーディガンを泥棒された」
など、ことあるごとに騒ぎ立てるため、自然と家族も腫れ物に触るような態度になってしまいます。
A子さんは家族からだんだんと孤立し、さらに認知症が進み、の負のスパイラルです。
この時点でようやく、メマンチンの登場となります。
すでに中等度以上の進行度になってしまったということですね。
しかし、A子さん自身は自覚がありませんので、「自己管理できる」と言って薬を手放そうとはしません。
アドヒアランスはおろか、服薬チェックもままならない状態が続きます。
ご本人のプライドが高いほど、介入が難しくなるとも言えますね。
(嫁)子さんは、実は薬剤師です。
にもかかわらず、家族の服薬管理ができないことを不甲斐なく感じていました。
飲んでいるのかいないのか把握できないメマンチン・・・。そのうちA子さんが「着ている物がなくなっちゃう(あるいは他の人の下着を着せられちゃう)からデイサービスに行きたくない」と拒否するようになり、ますます追い込まれます。
そこで、利用中のデイサービス所属のケアマネさんと話し合いました。まずはA子さんの、施設に対する不信感を取り除いた上で利用回数を増やし、メマンチンを昼食時に配膳して、確実に服用できるようにする作戦です。
A子さんが絶対の信頼をおいている、かかりつけ医の先生にも協力していただき、A子さんに上手く説明してもらうことにしました。
また、興奮を和らげ、不安や不穏を取り除くような処方もお願いしたいところです。
信頼出来るドクター、相談できる介護スタッフがいるのは心強い限りですよね。
ここにかかりつけ薬剤師が入れば、些細な情報を拾い上げて処方提案ができる・・・となると良いのですが。
ADLは下げたくない。眠剤などの持ち越しや、夜中にトイレに起きたときなど中途覚醒による一過性健忘、ふらつきなどによる転倒も避けたい。
(嫁)子さんは、かねてから抑肝散がどの程度認知症の周辺症状に効果があるのか気になっていたこともあり、かかりつけ医に処方の是非について検討してもらいました。
いくつか症例を見ると、1~2週間で効果が実感出来るとの報告が多いようです。
試しに寝る前だけ処方してもらうこととなりました。
A子さんへは「体が温まり、体質を改善する漢方薬」というふうに説明しています。
少し多めのお湯で溶かした抑肝散を急須に入れ、湯呑みを2つお盆にのせてA子さんの部屋へ。
「体が温まる漢方薬でお茶しましょうか。わたしもお茶、ご一緒していいですか?」
怪しまれないように(?)、(嫁)子さんも同じ急須から自分の湯呑みに注ぎます。
先に自分の方にだけ白湯を入れておくのがポイント。
ごくごく薄めた抑肝散を、ご相伴にあずかるのです。
もしも介護者がかなり精神的に疲弊していたなら、自分の分も処方してもらえるか聞いてみてもいいかもしれない、などと考えながら。
数日ほどすると、心なしかA子さんの表情も柔らかく、穏やかになってきたように見えます。
目立ったトラブルもなく、デイサービスを拒否することもほとんどなくなりました。
この場合、抑肝散の効果がどの程度あったのか、という点は問題ではありません。
患者さんも介護者もそれぞれ抱え込まず、追い込まれず、信頼し相談できる相手がいること。
また、患者さんを否定せず受け入れて(ときには受け流して)、徹底的に共感の意を表することにより、認知症の方の頭の中でどんなことが繰り広げられているのかをちょっとだけ垣間見ることができるかもしれません。
皆さんも薬剤師として、介護者または患者さんご本人と接する際に、限られた指導時間のなかで少しでも共感しあえるといいですね。
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